Survey: The impact of ESG on financial performance: a revisit with a regression discontinuity approach

Tutty - Aug 14 - - Dev Community

選定理由

非財務Tech+因果推論で引用論文も非常に多い。Edinburgh University Business Schoolと Shanghai Lixin University of Accounting and Financeの共同研究。

Paper: https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s43979-022-00025-5.pdf
Code: N/A

概要

【社会課題】
企業がESG施策を通じて株主やステークホルダーに対する説明責任や社会的期待に応える必要がある一方で、その施策が財務パフォーマンスへ与える影響の因果関係は明らかではない。

【技術課題】
・未観測共変量の存在: ESG施策を導入する企業は、元々財務パフォーマンスが良い企業や、他の要因(例えば、経営陣の質や市場環境など)の影響を無視できない。
・自己選択バイアス: ESG施策を導入する企業は、施策を導入しない企業と比べて異なる特徴を持っている可能性がある。例えば、社会的責任を重視する企業は、既にそのような文化を持っているかもしれない。これにより、ESG施策が直接財務パフォーマンスに影響を与えているのか、それとも企業の元々の特徴が影響を与えているのかを区別ができない。
・時間的な遅延効果: ESG施策の効果が現れるまでには時間がかかる場合があり、短期的な財務パフォーマンスの評価では、長期的な効果を見逃す可能性がある。
・データバイアス:ESGデータの質や一貫性が限られているため、正確な分析が難しい。また、異なる企業や国々でのデータの利用可能性や品質にばらつきがあるため、結果の一般化が難しい。
又、従来の研究では、ESG施策が企業の財務パフォーマンスに与える影響を観察データに基づいて評価することが多かったが、因果推論に基づく厳密な評価はなかった。

【検証内容(提案)】
回帰不連続デザイン(RDD)を用いて、ESG施策が僅差で可決された場合の財務パフォーマンスへの影響を評価した。この方法により、ESG施策の導入がほぼランダムに行われたとみなすことができ、因果効果を推定できる。

【検証結果(効果)】
研究結果は、ESG施策の可決が短期的には企業の株価にプラスの影響を与えるものの、長期的な財務パフォーマンスには有意な変化が見られないことを示した。これは、ESG施策の可決が広告的な意味を持つことが多く、実質的な変化を伴わない可能性があることを示唆している。

検証内容

使用したデータ

2006年-2018年のRussell 3000企業の株主提案データを使用している。データはInstitutional Shareholder Services (ISS) Governanceデータベースから取得し、ESG提案とガバナンス提案の2種類に分類されている。サンプルには11,434の提案が含まれ、そのうちESG提案は2586件。特に、可決と否決が微妙な差で分かれる提案に焦点を当て、これらの提案をランダムに割り当てられたものとして扱っている。ESG提案のうち、可決または否決が10%以内のものが177件含まれている。

因果モデル

ESG施策が企業価値(短期および長期の財務パフォーマンス)に与える因果効果推定の方法として回帰不連続デザイン(RDD[Thistlethwaite1960])を使用した。RDDでは施策提案が僅差で(例:51%)可決した場合と僅差で否決した場合を比較する。このように僅差で決まる提案はランダム割り当て(RCT)と見做すことができる。又、RDDは未観測共変量や時間的遅延に対してもロバストである。

パラメトリックアプローチ

パラメトリックなモデルでは、以下の回帰モデルを使用する:

Yit=β0+β1Pass+f(Vicmargin)+εitY_{it} = \beta_{0} + \beta_{1} \text{Pass} + f(\text{Vicmargin}) + \varepsilon_{it}

ここで、 YitY_{it} は企業 ii の時刻 tt における異常リターン等の結果変数であり、Passは提案が可決したかどうか(可決した場合は1、そうでない場合は0)を示す。 Vicmargin\text{Vicmargin} は勝利マージン(提案の得票率と最低可決率の差)を表し、 ff は勝利マージンと異常リターンの関係をモデル化する関数である。この関数により、提案の可決が異常リターンに与える影響を評価する。

f(Vicmargin)=j=0kδjVicmarginjf(\text{Vicmargin}) = \sum_{j=0}^{k} \delta_j \text{Vicmargin}^j
f(Vicmargin)=j=0kδjVicmarginj+j=0kγjPassVicmarginjf(\text{Vicmargin}) = \sum_{j=0}^{k} \delta_j \text{Vicmargin}^j + \sum_{j=0}^{k} \gamma_j \text{Pass} \cdot \text{Vicmargin}^j

ff の定義方法としては、上記のようにさまざまな1次~4次の多項式を使用してデータに最も適した関係をモデル化し、必要に応じて交互作用項を付加したり、企業の時間変動特性(Leverage, ROA, Cash, Sales growth, Advertising, R&D intensity, Labor productivity等)を付加したりした。

因果モデルとしては以下のような形である。

X:強制変数Vicmargin->結果変数Y(企業価値)
X:強制変数Vicmargin->Pass(採択の可否)
T:Pass(採択の可否)->結果変数Y(企業価値)

ノンパラメトリックアプローチ

ノンパラメトリックなモデルでは、データの分布や形状に関する仮定を必要としない局所線形回帰を使用して、カットオフポイント(本検証では50%)の周辺での観測値を重み付けすることで、ESG施策に関する提案の可決が企業価値に与える影響を評価する。ノンパラメトリックの方がより柔軟にデータの特性を捉えることができる。

局所線形回帰では、どの範囲のデータポイントを重み付けするかを決定するためにバンド幅が使用される。バンド幅が大きいとスムージングが強くなり、多くのデータポイントが考慮されるが、局所的な変動を捉えにくくなる。一方、バンド幅が小さいとカットオフポイント近くのデータポイントのみが考慮され、局所的な変動がより明確に捉えられるが、過剰適合のリスクが高まる。又、バンド幅と併せてGaussian, Epanechnikov, Biweight, Triweight といったカーネル関数が使用される。

最適なバンド幅を選択するためには、クロスバリデーションなどの手法が用いられる。データを学習とテストに分け、異なるバンド幅でモデルをトレーニングし、予測誤差を最小化するバンド幅を選択する。具体的には、バンド幅を変えながらモデルの性能を評価し、最も予測精度が高いバンド幅を見つけることで、適切なスムージングの度合いを設定する。

検証結果

RDD識別仮定の確認

RDD が置いている仮定の妥当性検証では、1. 処置群と対照群の識別仮定, 2. カットオフポイントでの連続性仮定の2つを確認する。

1. 処置群と対照群の識別仮定

検証は定性的に行う。処置群は強制変数(得票率)以上のもの、対象群はそれ以外である。

  • 条件付き独立性(交換可能性):得票率で条件づけられた場合に採択結果(Pass)と異常リターンは独立である。
  • 相互作用なし:対照群と処置群が互いに影響を及ぼすことはない。
  • 一致性:提案ESG施策は特に条件付けを必要としていないため一意である。

2. カットオフポイントでの連続性仮定

fig3

McCraryの処置変数のカットオフ値付近での連続性に関する検定を行った。p値は0.4249で帰無仮説(連続である)は棄却されなかった(図3)。一方でnon-manipulationについては検証していない。

短期の財務パフォーマンス

ESG提案の可決が投票日に異常リターンに与える影響を分析した結果、可決された企業は否決された企業と比較して1.22%高い異常リターンを示した。この結果は、パラメトリックおよびノンパラメトリックなアプローチの両方で確認され、Flammer (2015) の0.92%という結果とも一致している。

長期の財務パフォーマンス

長期的な財務パフォーマンスに関しては、ESG提案の可決が企業の収益性(ROAやTobin's Q)に与える影響は見られなかった。特に、可決後1年から4年の間に売上成長率や労働生産性に有意な変化は確認されなかった。

ロバスト性チェック

さまざまなロバスト性チェックを行い、結果の一貫性を確認した。異なる多項式次数や時間変動変数を使用しても結果は変わらず、ESG提案の可決が短期的な異常リターンにポジティブな影響を与えることが確認されたが、長期的な財務パフォーマンスへの影響は限定的だった。

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